ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
クラス IIa
・高血糖を認める患者では血糖値をモニタリングし,低血糖を起こさないよう血糖値90 mg/dL 以上を維持しつつ,血糖値200 mg/dL 未満を目標にインスリン持続
 静注を行う. レベルB
3.2.7 その他(血糖管理)
 急性心筋梗塞において急性期の高血糖は,糖尿病の既往の有無にかかわらず独立した予後の予測因子である414).高血糖は酸化ストレス,炎症,アポトー
シス,内皮機能障害,血小板機能亢進,凝固能亢進,さらには虚血プレコンディショニングの減弱により,微小循環障害や心筋傷害を悪化させる415).高血糖
の持続はさらなる予後規定因子であり416),急性期の高血糖に対してはインスリンの持続静注を行い,血糖値の是正を図る.入院時血糖が198 mg/dL 以上の
高血糖を伴う急性心筋梗塞を対象としたDIGAMI では,インスリン治療により平均血糖値を入院時277 mg/dL から24 時間後172 mg/dL まで低下させると,
対照群に比べ死亡率が有意に減少し,その効果は入院時の血糖値が高い患者でより顕著であった417).一方,入院時の平均血糖値が162 mg/dL の急性心
筋梗塞20201 例を対象としてGIK(グルコース・インスリン・カリウム)療法の有効性を検討したCREATE-ECLA では,24 時間後の血糖値がGIK 療法群で155
mg/dL と対照群135 mg/dL に比べ有意に高値となり,予後は改善しなかった418).集中治療患者を対象とした35 のランダム化試験のメタ解析では,目標血
糖値を設定した8 試験ではインスリン治療により有意に死亡率が減少したが,目標血糖値を設定しない27 試験では有意な効果が得られなかった419)

 急性期の血糖管理目標値について,NICE-SUGER は6104 例の集中治療患者を対象に,強化治療群(血糖目標値:81~108 mg/dL)と通常治療群(血糖
値目標値:180 mg/dL 未満,ただし144 mg/dL を下回ればインスリンを減量ないしは中止)とにランダム化した383).その結果,強化治療群で血糖値40 mg/dL
未満の重症低血糖を高率に認め(6.8 % 対0.5 %, p < 0.001),90日死亡率も高かった(27.5% 対24.9 %, p =0.02).低血糖は交感神経系の活性化の
ほか,内皮機能障害,炎症亢進,凝固能亢進により予後を悪化させる.急性冠症候群患者において,入院中の低血糖は自覚症状の有無にかかわらず,入院
時高血糖とは独立した強い予後規定因子であることが報告されている420).とくに急性期のインスリン持続静注による血糖コントロールでは,高い血糖値がいっ
たん下がり始めると,急速に低血糖となる場合があり,急性期高血糖の是正においては,低血糖を避けることに最大の注意を払わなければならない.
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