ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
STEMI に合併する上室不整脈のなかで最も頻度が多いのは心房細動である.65 歳以上あるいは左心不全を伴う患者では,ともに約20 %が心房細動
を発症する454,455).
心房細動合併例では非合併例と比べ,院内死亡(25.3% 対16 %),30 日死亡(29.3 % 対19.1 %),1 年死亡(48.3% 対32.7 %)が高率である454).
また入院中に新たに心房細動を発症した患者では,入院時から心房細動を合併している患者よりも予後が悪い454).脳卒中の発症率も心房細動を合併し
ない患者と比較して高い456).
多くの患者では,心房細動の合併により血行動態が悪化することはないため特別な緊急治療の必要はない.血行動態の悪化あるいは難治性の虚血を
伴う心房細動に対しては,同期下での電気ショックが推奨される.初回エネルギー量は単相性では200 J,二相性では120~200 J とし,除細動できなけ
れば段階的に増加する430).
一方,血行動態の悪化や心不全がなければ,薬物療法による心房細動の心拍数コントロールを行う.心房細動に対するアミオダロンの静注は,交感神
経活性を抑制するとともにCa 拮抗薬としての効果を発揮し,房室伝導能を抑制する.アミオダロン静注によって心房細動から洞調律化は得られにくいが,
心拍数のコントロールは期待される457).心房細動を合併した急性心筋梗塞患者でのアミオダロンの有効性を評価した検討はないが,心不全患者に対す
る心拍数コントロールのためにアミオダロン投与の有用性を検討した報告458),また通常の治療後も遷延する,頻脈を伴う心房頻拍の患者に有効であった
という報告もあり459),2008 年のESC のガイドライン121),2011 年のACCF/AHA/HRS のガイドライン460) では,急性心筋梗塞に合併した心房細動の心拍
数コントロール治療としてアミオダロンをクラス I として推奨している.しかし,わが国では心房細動に対するアミオダロンの静注は保険適応外である.
重篤な閉塞性肺疾患やアレルギーがない限り,心房細動の心拍数コントロールにはβ 遮断薬の投与が望ましい.欧米で推奨されているメトプロロール
やアテノロールの静注薬は日本では認可されていない.プロプラノロール2~10 mg の静注(1 分間に1 mg 以上は投与しない),ランジオロール0.06~
0.125 mg/kgを1分間で投与し,以後0.01~0.04 mg/kg/分を静注,あるいはエスモロール1回0.1mL/kg あるいは1 mg/kg を30 秒間で静注する.血圧が
100mmHg 未満に低下したり,心拍数が50/ 分未満まで減少すれば投与を中断する.β 遮断薬の静注投与は心拍数のコントロールに有用であり,心筋
酸素需要を減少させる461).β 遮断薬の投与が禁忌であれば,ベラバミルあるいはジルチアゼムの静注を行う.
左心不全を伴う心筋梗塞の患者ではジルチアゼムの投与により死亡率が増加した462) との報告もあり,これらのCa 拮抗薬は陰性変力作用を持つた
め,心不全の増悪に注意する.ジゴキシンは,重篤な左室機能障害あるいは心不全を合併している急性心筋梗塞患者では適切な代替治療となる.高齢
者や低カリウム血症,腎機能障害を有する患者では過剰投与に注意する.しかし,その効果発現には通常60 分以上かかり,効果が最大となるのは6 時
間後以降である.交感神経亢進時にはジゴキシンの効果は減弱する.
広範前壁梗塞患者や持続性心房細動合併患者では,血栓塞栓症予防のため抗凝固療法の適応となる.急性心筋梗塞後の左室機能障害例におい
て,ACE 阻害薬の投与は心房細動の発症を減らす可能性がある455).急性心筋梗塞後の左室収縮機能低下例を対象としたCAPRICORN研究では,カ
ルベジロール投与による心房細動,粗動の発症抑制が示された(5.4 % 対2.3 %)463).