ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
初期治療の原則は患者の血行動態を安定させ,早期に再灌流療法を行うことである.とくに重症心不全患者では血栓溶解療法よりもprimary PCI が有効
であるといわれている486,487).酸素吸入は組織低酸素状態を改善するために必要である.酸素飽和度を指標に適宜投与量を増減するが,酸素化が不十分
な際にはマスクを用いた非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)が行われ,良好な成績が報告されている488-490).陽圧
換気を吸気時に行えば圧支持換気(pressure support ventilation : PSV),呼気時に行えば呼気終末陽圧呼吸(positive end expiratory pressure:
PEEP),吸気,呼気それぞれに陽圧を設定すれば二相性陽圧換気(bilevel positive airway pressure : BiPAP),呼気と吸気が同じ圧なら持続陽圧換気
(continuous positive airway pressure:CPAP)と呼ばれる.これが無効あるいは禁忌の場合は気管内挿管を行い呼吸管理する491).
急性期に前負荷を減少させるための薬物としては塩酸モルヒネ,硝酸薬,利尿薬がある492).塩酸モルヒネは鎮痛効果だけでなく血管拡張作用と鎮静に
よる心拍数減少作用があり,3~5 mg を静注する493).硝酸薬(ニトログリセリン,イソソルビド),カリウムチャネル開口薬(ニコランジル)は低用量では静脈
系を拡張して前負荷を軽減し,高用量で動脈系に作用して後負荷を減弱させることにより肺動脈圧を低下させ心係数を上昇させる.投与量は収縮期血圧90
~100 mmHg を維持する範囲で用いる.ただし高齢者,動脈硬化の著しい患者,高血圧の既往がある患者などは,尿量や末梢循環状態を観察しながら目
標血圧を高めに設定しなければならない場合がある.
利尿薬の第一選択はフロセミドであるが,発症前に利尿薬内服をしていない患者では20 mg の少量から静注し反応をみる.高齢者や脱水のある患者で
は著明な血圧低下をきたすことがあり注意が必要である.一方,腎不全,利尿薬内服中の慢性心不全患者に対してはさらに高用量投与が必要である.利
尿薬使用時は,血清ナトリウム,カリウム,マグネシウム値などの電解質に変動を生じるため,これらを適宜補正する必要がある.
また,ループ利尿薬や他の利尿薬で効果不十分な心不全で体液貯留のある低ナトリウム血症では,水利尿薬であるバソプレシンV2 受容体拮抗薬(トル
バプタン)494) の有効性が期待される.血管拡張作用と利尿作用を併せ持つ薬剤として,わが国ではA 型ナトリウム利尿ペプチド(ANP)であるカルペリチド
が心不全治療薬として認可されている.カルペリチドは強力な血管拡張作用と利尿作用に加え, 交感神経系,レニン・アンジオテンシン系,バソプレシンな
どに対して生理的拮抗作用があり,心保護薬としての効果や腎保護作用も期待できる495-497).