ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
機械的補助を再考慮
強心薬増量
PCI,CABG による血行再建
硝酸薬を経口(経皮)薬に変更
ACE 阻害薬(もしくはARB)
低心機能例はβ遮断薬を積極的に考慮
機械的合併症(+) (IABP)
効果あり効果不良
ショック徴候 なし あり
酸素投与,CPAP,NIPPV
塩酸モルヒネ3~5mg 静注
利尿薬,血管拡張薬
機械的補助の必要性を判断
心エコー法による機械的合併症評価
収縮期血圧>100mmHg 収縮期血圧 70~100mmHg 収縮期血圧 < 70mmHg 外科的治療
血管拡張薬
NTG:0.5~2.0μg/kg/ 分,ISDN:0.5~3.3μg/kg/ 分,
カルペリチド:0.0125 ~ 0.1μg/kg/分
ノルアドレナリン0.03~0.3μg/kg/ 分
ドパミン0.5~20μg/kg/ 分
ドブタミン0.5~20μg/kg/ 分
CPAP:持続陽圧換気
 NTG:ニトログリセリン
 NIPPV:非侵襲的陽圧呼吸
 ISDN:イソソルビド
 ARB:アンジオテンシンⅡ受容体遮断薬
 IABP:大動脈内バルーンパンピング
 PCI:経皮的冠動脈インターベンション
 CABG:冠動脈バイパス術
A. 剖検
B. 大基準
・心電図V4R のST 上昇(0.1mV 以上)
・心エコーで右室のakinesis またはdyskinesis
・平均右房圧 ≧ 10 mmHg かつ
(平均肺動脈楔入圧-平均右房圧)≦ 5 mmHg
・右房圧のnoncompliant 波形
・肺動脈圧の交互脈または早期立ち上がり
C. 小基準
・下壁梗塞
・心エコーの右室拡大
・平均右房圧 ≧6 mmHg(安静時)
・Kussmaul 徴候
・99mTc ピロリン酸の右室への集積
確定診断
1.剖検診断
2.臨床診断
 ・大基準2 項目以上
 ・大基準1 項目と小基準2 項目以上(心エコー,平
  均右房圧の項目は重複しないこと)
 ・小基準4 項目以上
5.5 右室梗塞
クラス I
・右室梗塞を診断するために,右側胸部誘導V4R の評価と心エコー法を実施. レベルB
・可能な限り早期に再灌流療法を実施. レベルC
・一時的ペーシングによる房室同期の維持,徐脈の是正. レベルC
・輸液による循環血液量の適正化. レベルC
・輸液による改善がない場合の強心薬による血行動態補助. レベルC
・併発する左室機能障害の治療. レベルC
クラス IIa
・重篤な右室機能障害がある場合,CABG は右心機能の回復後に実施. レベルC
・輸液による改善がない場合のIABP による血行動態の補助. レベルC
 下壁のSTEMI の約半数に右室虚血を合併するといわれているが,臨床的に問題となる右室梗塞は10~15 %程度で,右室傷害範囲の広い場合には低心
拍出状態となる511,512).右冠動脈近位部の閉塞に伴う右室枝の虚血により右室自由壁が梗塞に陥り,V4R などの右側胸部誘導で1mm 以上のST 上昇を生
じる.身体所見では,低血圧,ショックに加えて,静脈怒張,Kussmaul 徴候が重要である511).右室梗塞時の低心拍出状態の発生機序は,①右室収縮力低
下により左室の前負荷が減少すること,②右室拡張に基づく心室中隔左方偏位および心嚢内圧上昇による左室のコンプライアンスの低下である.右室梗塞の
診断基準を表6 に示す513,514)

 右室梗塞の治療の原則は右室前負荷の早期維持,右室後負荷の低下,強心薬による右室機能障害の治療,房室同期の維持であり,このためには早期再
灌流が重要である.血行動態管理としてSwan-Ganz カテーテルを用いたモニタリングは必須である.典型例では右房圧が10mmHg 以上に上昇し,右房圧と
PCWP(肺動脈楔入圧)の差が5mmHg 以下となり,右房圧波形で深く急峻なy 谷(noncompliant 波形)が認められることが多い.

 心拍出量を維持するためには生理食塩液もしくは低分子デキストランによる急速大量輸液を行い,左室の前負荷を増加させる必要がある.その場合,
PCWP を15mmHg程度に保つよう心がける.PCWP が18mmHg 以上に上昇すると,左心不全徴候が出現する可能性がある.急速大量輸液500~1000
mL で反応がない場合はカテコラミン,さらにはIABP の適応となる.硝酸薬の投与は著明な低血圧を招く危険性があるため,きわめて慎重に行わなければな
らない.房室ブロックや心房細動などの不整脈を合併した場合には,心房心室順次ペーシングや電気的除細動を早期に行う必要がある515).早期の再灌流
療法は右室機能を改善し,房室ブロックの発現を予防するとされている516,517).ただし,CABG の場合は右室梗塞合併患者に対する発症6 時間以降の施行
例はきわめて死亡率が高いため,4 週以後で右室機能が改善するまで待つことが推奨される513)

 STEMI に合併したポンプ失調治療の指針を示す(図10 369,518a)).
 
表6 右室梗塞診断基準
(冠動脈疾患の集中治療513) より改変引用)
図10 急性心筋梗塞におけるポンプ失調の治療
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