ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
下壁のSTEMI の約半数に右室虚血を合併するといわれているが,臨床的に問題となる右室梗塞は10~15 %程度で,右室傷害範囲の広い場合には低心
拍出状態となる511,512).右冠動脈近位部の閉塞に伴う右室枝の虚血により右室自由壁が梗塞に陥り,V4R などの右側胸部誘導で1mm 以上のST 上昇を生
じる.身体所見では,低血圧,ショックに加えて,静脈怒張,Kussmaul 徴候が重要である511).右室梗塞時の低心拍出状態の発生機序は,①右室収縮力低
下により左室の前負荷が減少すること,②右室拡張に基づく心室中隔左方偏位および心嚢内圧上昇による左室のコンプライアンスの低下である.右室梗塞の
診断基準を表6 に示す513,514).
右室梗塞の治療の原則は右室前負荷の早期維持,右室後負荷の低下,強心薬による右室機能障害の治療,房室同期の維持であり,このためには早期再
灌流が重要である.血行動態管理としてSwan-Ganz カテーテルを用いたモニタリングは必須である.典型例では右房圧が10mmHg 以上に上昇し,右房圧と
PCWP(肺動脈楔入圧)の差が5mmHg 以下となり,右房圧波形で深く急峻なy 谷(noncompliant 波形)が認められることが多い.
心拍出量を維持するためには生理食塩液もしくは低分子デキストランによる急速大量輸液を行い,左室の前負荷を増加させる必要がある.その場合,
PCWP を15mmHg程度に保つよう心がける.PCWP が18mmHg 以上に上昇すると,左心不全徴候が出現する可能性がある.急速大量輸液500~1000
mL で反応がない場合はカテコラミン,さらにはIABP の適応となる.硝酸薬の投与は著明な低血圧を招く危険性があるため,きわめて慎重に行わなければな
らない.房室ブロックや心房細動などの不整脈を合併した場合には,心房心室順次ペーシングや電気的除細動を早期に行う必要がある515).早期の再灌流
療法は右室機能を改善し,房室ブロックの発現を予防するとされている516,517).ただし,CABG の場合は右室梗塞合併患者に対する発症6 時間以降の施行
例はきわめて死亡率が高いため,4 週以後で右室機能が改善するまで待つことが推奨される513).
STEMI に合併したポンプ失調治療の指針を示す(図10 369,518a)).