ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
7.2 心膜炎
クラス I
・梗塞後の心膜炎には高用量アスピリンを投与する. レベルB
・心膜液貯留が出現もしくは増加する場合,抗凝固療法は中止を考慮する. レベルC
クラス IIa
・アスピリンが無効な場合は,アセトアミノフェンを投与する. レベルC
クラス IIb
・難治性である心膜炎に対して,コルチコステロイドを使用する. レベルC
・痛みの除去を目的に,非ステロイド系抗炎症薬を使用する. レベルB
クラス III
・鎮痛を目的としてイブプロフェンを使用する. レベルB
 STEMI に伴う心膜炎は,心筋壊死が心内膜側から進展し,心筋の全層を通じて心外膜側に達した際に発生する.心膜炎を合併する患者は梗塞サイズが大
きく心不全を生じることが多い563,564).心膜炎はSTEMI 発症数日後で多く発生し,数週間までに及ぶこともある.心筋虚血に似た胸部不快感のこともあるが,
肋膜性の痛みや体位による変動のある不快感などを訴えることがある.これに加え心膜摩擦音を聴取すれば診断は確定的であり,心電図では凹型の広範な
ST 上昇が特徴的である.

 心膜液貯留は,40 %以上の患者において心エコー法で確認されたと報告があるが558),心膜液自体が血行動態に重大な影響を与えることはまれで,吸収
が遅く,しばしば数か月を要する.多くのSTEMI では少量の心膜液は認められ,少量の心膜液があっても心膜炎とは診断できない565).梗塞サイズの大きいQ
波梗塞や,非再灌流療法例において,虚血症状としては典型的でなくても胸部症状を訴え心膜液貯留の増加が観察された場合には,“oozing rupture”も念
頭におく必要がある528).STEMI 発症後の最初の1 週間に,症状とともに持続的な陽性T 波,または陰転化していたT 波が自然経過では説明できない陽転化
などが観察された場合には,心膜炎の発生を疑う.しかし,心筋梗塞後の類似したT 波の変化は,心膜液貯留だけで心膜炎がなくても観察される566).心膜炎
はCK-MB などの心筋バイオマーカーの再上昇は伴わない.再灌流療法の普及により心膜炎の発生率は減少し,自己免疫性心筋炎であるDoressler 症候群
(心筋梗塞後症候群)はほとんど経
験しなくなった567)

 治療の第一選択はアスピリン(1 回0.33~1.5g,1 日1.0~4.5g,適宜,増減ただし最高量まで)である.非ステロイド系抗炎症薬は痛みを軽減する目的で使
用してもよいが,心筋瘢痕の菲薄化や梗塞拡大を招く恐れがあり,長期間使用すべきではない.とくにイブプロフェンは,アスピリンの抗血小板作用に干渉する
ため用いるべきではない568).コルチコステロイドも同様に痛みの軽減に有効だが,梗塞瘢痕の菲薄化や心破裂に関与するとされるため569,570),他に治療手段
がない場合に限り使用されるべきである.急性心膜炎を合併しても抗凝固療法の続行は可能だが,心膜液の増加や血行動態の不安定化がないか注意深く
観察することが必要である.心タンポナーデの危険があると判断した場合には,抗凝固療法はただちに中止すべきである.
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