ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
8.1 脳卒中
クラス I
・神経内科専門医に診察を依頼する. レベルC
・心エコー法,頭部X 線CT/MRI,頭頸部MRA,頸動脈エコー法を行う. レベルC
・持続性心房細動を合併した患者が虚血性脳卒中を発症した場合は,ワルファリンを投与する. レベルA
・心房細動,左室内血栓,心尖部無収縮を合併する患者では,虚血性脳卒中の発症の有無にかかわらず,アスピリンに加え抗凝固療法を行う. レベルB
クラス IIa
・虚血性脳卒中のリスクを評価する. レベルA
クラス IIb
・少なくとも50 %以上の内頸動脈狭窄が原因で急性虚血性脳卒中を発症した場合,脳卒中後4~6 週後に頸動脈内膜除去術ないしステント留置を考慮してもよ
 い. レベルC
 急性脳卒中は,STEMI の0.75~1.2 %に発症すると報告されている561,571,572).STEMI の生存率が向上している一方で,STEMI 後脳卒中の死亡率
は40 %と依然として高い571).脳梗塞の既往,高血圧,高齢,低心機能,心房細動はSTEMI 後の塞栓性脳卒中発症の危険因子である561,573,574).梗塞部位
も重要で,前壁梗塞で発症頻度が高いとされているが,他の梗塞部位でも同等の発症頻度であるという報告もある573,575).心房細動は,これら危険因子のな
かで最も重要な因子である.SAVE 試験574) では,左室駆出率の低下とともに長期的な脳卒中発症率が増加した.左室内血栓の形成は,広範な壁運動低
下,とくに左室心尖部に無収縮,奇異性収縮を合併する際に起こりやすい.また,Killip 分類 III,IV でも頻度が高くなる576).左室内血栓や左房内血栓による
塞栓性脳卒中は,血栓溶解療法を施行した患者でも起こり,積極的な抗凝固療法は脳塞栓の発症予防を可能にする577,578).STEMI 発症後28 日以内が最
も発症率が高く,1 年後までは発症の危険がある572)

 STEMI 後に脳局所神経徴候が発現した場合には,早期の病変の検出にはMRI,MRA が有効である.CT 検査では発症早期は陰性のことが多く,繰り返
し施行する必要がある.また,頸動脈エコーも施行し,頸動脈に外科的治療適応のある狭窄病変があるか否かを検索すべきである579).心原性塞栓の原因検
査には心エコー法が有用だが,心房細動に伴う左房内血栓の検出には,経食道心エコー法を用いる.

 STEMI 後のアスピリン投与は虚血性脳卒中の発症頻度を減少させる580).PCI 後,心原性血栓症のリスクがないにもかかわらず虚血性脳卒中を合併した
患者では,クロピドグレル75 mg/ 日(12 か月以上)と少量アスピリン81~162 mg/ 日(永続的投与)の併用が効果的であるとする報告がある581)

 心房細動,左室内血栓,左室の広範な無収縮など,心原性塞栓源を持つ患者の場合には,少量アスピリンの投与とともにPT-INR 2 前後を目標にワルファ
リン投与を行うべきである.ワルファリン治療の期間は,心原性塞栓の原因となる基礎疾患によって考慮する.心房細動患者では,心エコー所見にかかわらず
生涯にわたるワルファリン治療を継続すべきである.一般的に左室内血栓を持つSTEMI患者では,少なくとも3 か月間の抗凝固療法が必要である.しかし3
か月後においても,血栓形成のリスクが消失しない場合には生涯にわたる抗凝固療法が望まれる.

 臨床所見を説明できる内頸動脈の狭窄が発見された場合には,内膜除去術か579,582),distal protection device を用いた頸動脈ステント留置術の適応であ
583,584).頸動脈内膜除去術は,その手術に伴う死亡率,合併症発生率を納得したうえで梗塞後4~6 週後に行うのがよい.307 例を対象とした2002 年に発
表された報告585) では,30 日予後(死亡,心筋梗塞,脳梗塞の合計)は,外科的内膜除去術より頸動脈ステントのほうが良好であった(5.8 % 対12.6 %,p
= 0.047).
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