ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
2.1 抗血小板,抗凝固薬
クラス I
・禁忌がない患者に対するアスピリン(81~162 mg/日)の永続的投与. レベルA
・左室,左房内血栓を有する心筋梗塞,重症心不全,左室瘤,肺動脈血栓塞栓症を合併する患者,人工弁置換術後の患者に対するワルファリンの併用. レベルA
・低用量アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の2剤併用抗血小板療法(DAPT)を,ベアメタルステント留置の場合は少なくとも1 か月間,薬剤溶出ステント留置 の場合には少なくとも12 か月間併用し,出血リスクが高くない患者やステント血栓症の高リスク患者に対する可能な限りの併用療法の継続. レベルB
・アスピリンが禁忌である患者に対するクロピドグレル(75mg/ 日)の投与. レベルC
クラス IIa
・閉塞性動脈硬化症または脳梗塞を合併する患者に対するアスピリン禁忌の有無にかかわらずクロピドグレルの単独投与. レベルB
・症状を伴う閉塞性動脈硬化症を合併する患者に対するアスピリンとシロスタゾールの併用. レベルB
クラス IIb
・アスピリンが禁忌である患者に対するチクロピジン(200mg/ 日)の投与. レベルC
・アスピリンおよびチエノピリジン系抗血小板薬が禁忌である患者に対するシロスタゾール,サルポグレラートの投与. レベルB
・アスピリン投与が禁忌あるいは困難である患者に対するPT-INR 2.0~3.0 でのワルファリン投与. レベルB
クラス III
・ジピリダモールの単独投与. レベルB
・アスピリンとイブプロフェンの併用. レベルC
・活動性消化性潰瘍,重篤な血液異常,アスピリン喘息や過敏症の患者に対するアスピリンの使用. レベルC
*一過性および持続性心房粗細動を合併する患者に対する抗血栓療法に関しては,「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント(『循環器疾
患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)』)828) を参照.

 わが国において急性冠症候群に対するprimary PCI 実施率は80 %前後29,220,396) と高い.冠動脈ステント留置後の抗血小板療法は必須で,アスピリン81
~162 mg/ 日とチエノピリジン系抗血小板薬の併用が一般的である176,302)

 一方で,薬剤溶出性ステント(DES)を用いたPCI 後のステント血栓症が問題とされている.アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬によるDAPT 至適投与
期間がいくつかの臨床研究で検討されているが,ステント血栓症の予防を目的とした至適投与期間を決定するだけのエビデンスは未だ十分ではない829-831)
このため本ガイドラインでは,欧米の成績を参考にしてクラス分類した.

 ガイドラインACC/AHA/SCAI ガイドライン832) および米国FDA833) では,DES 挿入後の遅発性ステント血栓症予防のため,出血リスクの低い患者に対して
は,アスピリンに加えて少なくとも12 か月間のクロピドグレル併用投与を推奨している.

 わが国におけるj-Cypher レジストリー研究では,6 か月以内のチエノピリジン系抗血小板薬の投与中止はステント血栓症のリスクとなるが,6 か月以降にチ
エノピリジン系抗血小板薬を中止しても,2 年間の観察期間における心事故の発症リスクは上昇しないことが報告された309).さらに,1 年以上チエノピリジン
系抗血小板薬を継続しても,5 年間の観察期間における超遅発性ステント血栓症や心血管事故のリスク軽減効果が認められなかった310).また,ステント植込
み後4 か月以降13 か月以内にチエノピリジン系抗血小板薬を中止しても,13 か月後の心事故発症リスクは変わらず,むしろ輸血を必要とする中等度以上の
出血リスクが増加することがわが国の観察研究で報告されている834).1 年以上のDAPT の心事故抑制効果の有用性は,糖尿病や心筋梗塞の合併,高度冠
動脈複雑病変で層別化しても認められない830,831).また抗血小板療法の至適投与期間については,人種差や新たに開発されるDES の使用薬剤により異
なる可能性がある.

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)併用などCYP2C19 に対する相互作用により,クロピドグレルの血小板凝集抑制効果の減弱およびステント血栓症や心血管事故
のリスク上昇との関連が報告されている313,317,835).しかし近年,PPIや他のCYP2C19 阻害作用を示す薬剤とクロピドグレルの併用は,心事故リスクの上昇と
関連しないとする報告が主流となりつつある836)
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