ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
クラス I
・心筋梗塞発症後のwide-QRS tachycardia は,心電図診断が確定できない場合はVT として対応する.レベルC
・心筋梗塞発症後にwide-QRS tachycardia が確認された場合,可能な限り12 誘導心電図を記録し,ただちに循環器専門医にコンサルトする. レベルC
・多形性持続性VT に対して,非同期下電気ショックを行う.(初回のエネルギー量は,二相性なら除細動器メーカーの推奨エネルギー〈120~200 J〉に設定する.
 単相性なら360 J に設定する). レベルB
・単形性持続性VT に対して,狭心症,肺水腫,あるいは低血圧(血圧< 90 mmHg)を伴う場合,可能であれば鎮静下にて同期下電気ショックを行う.(単相性,
 二相性いずれも100 J から,頻拍が停止しない場合は出力を上げる) レベルB
・単形性持続性VT に対して,狭心症,肺水腫,低血圧(血圧< 90 mmHg)を伴わない場合,鎮静下にて同期下電気ショックを行う.(単相性,二相性いずれも100
  Jから,頻拍が停止しない場合は出力を上げる)レベルB
・再発性,難治性の血行動態不安定なVT や多形性持続性VT への対応.
 ①静注アミオダロンまたはニフェカラントを投与する.ニフェカラントはQT 延長患者には使用を控えるか,減量を考慮する. レベルC
 ②静注β 遮断薬(ランジオロール)を投与する(保険適応外).心機能低下患者には使用を控えるか,減量を考慮する. レベルC
 ③大動脈内バルーンパンピング(IABP),緊急PCl,CABG を施行し,積極的に心筋虚血を解除する. レベルC
 ④血清カリウム> 4.0mEq/L,血清マグネシウム>2.0mg/dL を維持するため,電解質を補正する. レベルC
 ⑤ 60/ 分未満の徐脈やQTc 延長を有する患者は,一時的ペーシングなどにより心拍数を増加させる. レベルC
クラス IIa
・単形性持続性VT に対して,狭心症,肺水腫,低血圧(血圧<90 mmHg)を伴わない場合,静注アミオダロンまたはニフェカラントを投与する.ニフェカラントはQT
 延長患者には使用を控えるか,減量を考慮する. レベルB
クラス IIb
・再発性,難治性の血行動態不安定なVT や多形性持続性VT に対して,アミオダロンやニフェカラントが使用できない場合,リドカイン投与(1~1.5 mg/kg を
 5 分以上かけて静注)を考慮する. レベルB
クラス III
・血行動態の悪化のない孤立性心室期外収縮,二連発,および非持続性VT に抗不整脈薬を投与する.レベルA
4.1.2 心室頻拍
 VT が30 秒以上持続するか,血行動態が破綻し,すみやかな治療を必要とするものを持続性VT と呼び,30 秒以内に自然停止するものを非持続性VT と呼
ぶ.ほとんどのVT は心筋梗塞発症後48 時間以内に発症する.48 時間以降に発症した持続性VT や,170bpm未満の単形性VT は心筋梗塞急性期のVT と
しては非典型的であり,不整脈源性基質の存在を示唆する438,439)

 心電図モニターでwide-QRS tachycardia を確認したが,状態が安定していると判断した場合,診断を進めるために12 誘導心電図を記録し,ただちに循環
器専門医にコンサルトする.状態が安定していても,血圧が低下するなど不安定な状態に陥ることも想定し治療にあたる.wide-QRStachycardia で最も多い
のはVT であるが,変行伝導あるいは脚ブロックを伴った上室頻拍もwide-QRS tachycardia を呈し,心筋梗塞後の心電図変化によってさらに上室頻拍とVT
との鑑別は困難である.そのため心室頻拍と明らかに否定できない場合には,心室頻拍として治療にあたる.血行動態の破綻をもたらす持続性VT は,同期
下電気ショックの適応となる.また,速い多形性VT はVF と同様に,非同期下で電気ショックを行う.持続性単形性VT に対して,単相性,二相性いずれも
100J から同期下電気ショックを行う.血行動態が保たれた持続性VTに対しても同期下電気ショックは適応である430,440)

 VT に対する治療は上記のように同期下電気ショックが基本である.AHA2010 ガイドラインでは血行動態が安定している場合は抗不整脈薬による治療を考
慮してもよいとされている430).ただし,抗不整脈薬による薬物治療を開始する場合は,つねに急変の可能性を念頭に置き,除細動器などの準備をしておく必
要がある.また効果がない場合に循環器専門医への相談なしに第2 の抗不整脈薬を投与してはならない.VT に対してアミオダロンを静注する場合,125 mg
を10 分かけて静注する.引き続き300 mg を6 時間かけて持続静注,次に維持投与として450 mg を18時間かけて,2 日目以降は600 mg を24 時間かけて
持続投与する.VT やVF が再発した場合,125 mg を10 分かけて追加投与してもよいが,総累積用量1750 mg/24 時間を超えてはならない.投与開始後,
血圧低下や徐脈が起こることがあるが,その際は投与速度を遅くする.アミオダロンは,冠動脈疾患を有する患者や心機能が低下した患者における単形性VT
の再発予防や治療抵抗性の心室性不整脈の治療にも有効である441-444).アミオダロン静注薬がない場合は,その代替薬としてリドカインを持続性VT に投与
してもよいが,その効果は劣る.一方で,VT を予防するため全例にアミオダロン,リドカインを含め,抗不整脈薬をルーチン使用することは勧められない.

 治療抵抗性のVT に対して,ニフェカラントの静注が有効であるという報告がある431,432,445).ニフェカラントは0.15~0.3 mg/kg を 5 分かけて静注し,以後0.4
mg/kg/ 時で持続静注を開始する.高齢者ではtorsades de pointes 発症を予防するために,初期の投与量を少なくするだけでなく(0.1~0.3 mg/kg),持続
投与量も少なくし(0.1~0.4mg/kg/ 時),早期に漸減中止する.

 STEMI 発症後,治療抵抗性の多形性VT や頻回な除細動を必要とするVF が繰り返し起きる場合(electrical storm)がある.その機序として心筋虚血や交
感神経亢進の関与が疑われており,アミオダロン,ニフェカラントなどの抗不整脈薬の投与を行うが,効果が不十分の場合には,β 遮断薬の投与446-448)
IABP の使用,緊急PCl を考慮する必要がある.また一時的ペーシングにより心拍数を増加したり,先行する期外収縮に対するカテーテルアブレーションが有
効なことがある449,450).血清カリウムの低下やマグネシウムの低下によりVT の出現が増加するため451),すみやかに補正する.
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