ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
7.1 再梗塞,梗塞後狭心症
クラス I
・硝酸薬やβ 遮断薬を中心とした内科治療を強化し,さらに経静脈的抗凝固療法を行う. レベルB
・Risk area が広範で,血行動態の不安定化徴候を認めるか低左室機能を合併する場合,内科治療の強化とともに緊急冠動脈造影検査を行う.必要に応じてIABP
 を開始し,緊急血行再建術を考慮する. レベルC
・以前の冠動脈造影検査により血行再建術の適応があると判定される患者では,PCI ないしCABG を考慮する. レベルB
・ステントを用いたprimary PCI 施行例では,ステント内血栓症の発症を念頭に緊急冠動脈造影検査を考慮する. レベルC
・冠動脈造影検査やPCI がただちに行えない状況下で(理想的には胸部症状発症から60 分以内),ST 上昇とともに胸部症状が再発した際には,血栓溶解薬投与 を考慮する. レベルC
 胸部症状が発症時のものと類似していれば,心筋虚血由来である可能性が高く,まず硝酸薬やβ 遮断薬を中心とした内科治療を強化する.続いて,鑑別
のためにCK-MB(クレアチンキナーゼMB),H-FABP(ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白), 心筋トロポニンなどの心筋バイオマーカーや,心電図変化(ST 上昇な
いしST 下降,陰性T 波の偽正常化〈pseudo-normalization〉)を評価する558).心筋梗塞の再発には,同一部位で再度,心筋壊死が発生する場合と,異なる
部位で発生する場合がある.心筋梗塞発症後は心電図は自然経過のなかで変化し,また再灌流の有無,程度によっても影響され,心筋バイオマーカーも正
常値を超えて上昇していることが多く,心筋梗塞の再発を診断するのは難しいことも少なくない.心電図,心筋バイオマーカー,心エコー所見を,入院後の変
化と比較し,総合的に診断する必要がある.心筋虚血の再発,拡大が示唆されるときは,緊急冠動脈造影検査の施行も考慮する.

 わが国で約7 割の対象患者にPCI が施行された3000 名規模の観察研究の報告によると,入院中の再梗塞発生頻度は2.5~3 %程度である28,29).一方,
欧米で血栓溶解療法だけを受けた患者の報告では,約4~5 %181,524) とされる.梗塞後狭心症の発生頻度は,血栓溶解療法だけ施行された場合には20
%,primary PCI が施行された場合には6 %181,241) とされ,ステントが使用されると頻度はさらに低下する559).再梗塞は,梗塞責任血管領域で起きやすい
が,責任冠動脈以外に病変が存在する場合にも注意が必要である.死亡,重症心不全,重篤な不整脈は心筋梗塞再発直後に起こりやすく,心原性ショック
や心停止などの発生頻度も高い181,524,560)

 急性期にステントを用いたprimary PCI 施行例で,心筋虚血由来の胸痛が発生した場合には,第一にステント内血栓症(急性および亜急性血栓症)を疑
い,緊急冠動脈造影検査の施行を考慮する必要がある.この合併症では,突然死などの重症例が多い.

 急性期に血栓溶解療法だけを施行し,冠動脈所見が明らかでない患者で,心筋虚血由来の胸痛が発生した場合には,緊急冠動脈造影検査を施行する.
冠動脈造影所見から梗塞責任病変部位の再閉塞であるか他病変であるかを検討し,所見に応じてPCI ないしはCABG を行う561,562)
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