ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
2.1.1 これまでのエビデンス
 心臓リハビリテーションとは,「心疾患患者の最適な身体的,心理的,社会的状態を回復および維持し,基礎にある動脈硬化の進行を抑制し,さらに罹病
率と死亡率を低下させることを目指す多面的介入」である770-772).心臓リハビリテーションプログラムは,①運動トレーニングと運動処方,②冠危険因子の軽
減と二次予防,③心理社会的因子および復職就労に関するカウンセリング,の3 つの構成要素を含み,実施時期から「急性期(第I 相phase I)」,「回復期
(第II 相phase II)」,「維持期(第III 相phase III)」の3 つの時期に分類される.わが国ではSTEMI 患者に対する心臓リハビリテーションは,平成18(2006)
年4 月から「心大血管疾患リハビリテーション」と改訂され,開始日から150 日間の算定が認められている.

 心臓リハビリテーションが虚血性心疾患患者の運動耐容能を改善するほか,冠危険因子を改善し,QOL を向上させ,心筋梗塞の再発,心血管死亡や総
死亡率を低下させるなどの有益な効果をもたらすことはすでにエビデンスとして確立されている771-775).Taylor らは,虚血性心疾患患者合計8940 名を対象
とした48 編の無作為割り付け試験(介入期間の中央値3 か月間,追跡期間の中央値15 か月間,32 編が心筋梗塞患者のみを対象とする)をメタ解析し,心
臓リハビリテーションは通常治療に比較して総死亡を20 %( p = 0.005),心死亡を26 %( p = 0002)有意に減少させると報告している774).さらにサブグ
ループ解析により,再灌流療法が一般的になった1995 年以前と以降の報告で総死亡減少効果は同等と報告している.Lawler らは,心筋梗塞患者に限定
した34 編の無作為割り付け試験のメタ解析を行い,心臓リハビリテーションは通常治療に比較して総死亡を26 %,心血管死亡を39 %,心死亡を36%,心
筋梗塞の再発を46 %有意に減少させると報告している775).Haykowsky らは,心筋梗塞患者合計647 名を対象とした12 編の無作為割り付け試験のメタ解
析を行い,運動療法は通常治療に比較して左室リモデリングを抑制すると報告している776)

 これらを踏まえて,米国心臓病学会および米国心臓協会のACC/AHA 2004 ガイドライン369) および2007 年改訂版777) において,STEMI 後に心臓リハビリ
テーションを実施することが クラス I として推奨されている.さらに,AHA/ACCF二次予防ガイドライン2011年改訂版778) では,“心臓リハビリテーション”が
これまでの“身体活動”の項から独立した項目として記載された.また,これまで“高リスク患者だけ”に“監視型プログラム”が推奨されていたが,今回は“全
例”が包括的外来心臓リハビリテーションプログラムの対象とされ“ 低リスク患者だけ”が非監視型在宅リハビリテーションでも可能とされている.これらの事
実は,心臓リハビリテーションプログラムが単に社会復帰までの理学療法,身体トレーニングにとどまらず,薬物治療と並んで虚血性心疾患患者の長期予後
改善を目指す治療法の一つであることを示している.
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