ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
強度(METs)
軽い運動(< 3 METs)
中等度の運動(3.0~6.0 METs)
強い運動(≧ 6.1METs)
軽度リスク(健常人と同様) すべて許容すべて許容条件付き許容*1
中等度リスク(5METs 以下では虚血なし)
すべて許容条件付き許容*2 条件付き許容*3
高度リスク(日常生活で虚血・心不全あり)
条件付き許容*3 条件付き許容*4 禁忌
軽度リスク(症状が安定し,以下のすべてを満たす)
中等度リスク(症状が安定し,以下のいずれかに該当)
高度リスク(症状が不安定で,以下のいずれかに該当)
NYHA I 度NYHA II 度NYHA III~IV 度
症候限界運動負荷試験:狭心症,虚血性ST 変化,重篤な不整脈ともなし
症候限界運動負荷試験:5METs以下では狭心痛,ST 変化,重篤な不整脈なし
症候限界運動負荷試験:5 METs 以下で狭心痛,ST 変化,重篤な不整脈を認める
運動耐容能≧ 10 METs* 運動耐容能:5~10 METs* 運動耐容能:< 5 METs*
左室駆出率≧ 60 % 左室駆出率:40~60 % 左室駆出率:< 40 %
心不全症状なし 日常生活で心不全症状はないが, 心胸郭比≧55% または軽度肺うっ血あり
日常生活で心不全症状あり
脳性ナトリウム利尿ペプチド< 100 pg/mL 脳性ナトリウム利尿ペプチド≧ 100 pg/mL
左主幹部≧ 50 % および他の主要血管に75 %以上狭窄
心停止の既往

 一方,日常生活での労働やスポーツにおける身体活動許容範囲に関しては,『心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける運動許容条件に関するガイドラ
イン(2008 年改訂版)』805) が出版されている.そこでの基本的考え方は,心疾患患者をその重症度に応じて,「軽度リスク」(健常人と同等),「中等度リスク」
(5METs 以下では虚血なし),「高度リスク」(日常生活で虚血,心不全あり)に分類(表11)する一方,運動をその強度に応じて,「軽い運動」(<3METs),
「中等度の運動」(3.0~6.0METs),「強い運動」(≧6.1METs)に分類し,それぞれの組み合わせで,「すべて許容」,「条件付き許容」,「禁忌」と判定するも
のである(表12)

 具体的には,軽度リスク患者では,中強度(3.0~6.0METs)以下の運動はすべて許容され,強い運動(≧ 6.1METs)だけ条件付き許容とされる.中等度リ
スク患者では,軽い運動(< 3METs)はすべて許容であるが,それ以上の運動は条件付き許容となる.高度リスク患者では,軽い運動でも条件付き許容で,
中等度の運動は専門医の管理下において許可された労働だけに許容され,強い運動(≧6.1METs)や競技スポーツは禁忌とされている805)

 なお,車の運転は,米国では,問題ないと判定されれば退院1 週間後から開始可能とされる369).わが国では明確な基準はないが,心筋虚血,重篤な不整
脈,心不全がない患者では,退院1~2 週間後から可能と考えられる.ただしラッシュアワー,悪天候,夜間,高速運転は避ける必要がある.飛行機での旅行
は,上空では機内の気圧が低下するので,狭心症や呼吸困難のある患者では発症後2 週間は避けるべきである369).なお現在では機内にAED が設置され
ている.

 性生活については,通常の性行為における心拍数上昇は階段昇降レベルに相当するとされ806),合併症のない安定患者ではいつものパートナーとの性生活
は退院7~10 日後に可能とされる369).中等度以上のリスクを有する場合や性行為により症状が出現する場合は,個別に相談し判断する.硝酸薬を投与中の
患者または発作時に硝酸薬舌下錠またはスプレーを使用する可能性のある患者は,勃起不全治療薬のシルデナフィル(バイアグラ® など)やその他のホスホ
ジエステラーゼ5 阻害薬の使用を禁止する.
3.2.2 日常生活における許容範囲
表11 冠動脈疾患患者のリスク分類
:女性患者では低く見積もる必要がある.
表12 冠動脈疾患患者における労働・運動許容条件
リスク分類は表11 に従って決定する.
*1:運動負荷試験で確認された強度以下はすべて許容.
*2:運動耐容能の60 % 以下で,かつ虚血が出現しない強度を許容.
*3:運動耐容能または虚血出現の60 % 以下の強度を許容.
*4:専門医の管理下において許可された労働のみ許容.
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