ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
一方,日常生活での労働やスポーツにおける身体活動許容範囲に関しては,『心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける運動許容条件に関するガイドラ
イン(2008 年改訂版)』805) が出版されている.そこでの基本的考え方は,心疾患患者をその重症度に応じて,「軽度リスク」(健常人と同等),「中等度リスク」
(5METs 以下では虚血なし),「高度リスク」(日常生活で虚血,心不全あり)に分類(表11)する一方,運動をその強度に応じて,「軽い運動」(<3METs),
「中等度の運動」(3.0~6.0METs),「強い運動」(≧6.1METs)に分類し,それぞれの組み合わせで,「すべて許容」,「条件付き許容」,「禁忌」と判定するも
のである(表12).
具体的には,軽度リスク患者では,中強度(3.0~6.0METs)以下の運動はすべて許容され,強い運動(≧ 6.1METs)だけ条件付き許容とされる.中等度リ
スク患者では,軽い運動(< 3METs)はすべて許容であるが,それ以上の運動は条件付き許容となる.高度リスク患者では,軽い運動でも条件付き許容で,
中等度の運動は専門医の管理下において許可された労働だけに許容され,強い運動(≧6.1METs)や競技スポーツは禁忌とされている805).
なお,車の運転は,米国では,問題ないと判定されれば退院1 週間後から開始可能とされる369).わが国では明確な基準はないが,心筋虚血,重篤な不整
脈,心不全がない患者では,退院1~2 週間後から可能と考えられる.ただしラッシュアワー,悪天候,夜間,高速運転は避ける必要がある.飛行機での旅行
は,上空では機内の気圧が低下するので,狭心症や呼吸困難のある患者では発症後2 週間は避けるべきである369).なお現在では機内にAED が設置され
ている.
性生活については,通常の性行為における心拍数上昇は階段昇降レベルに相当するとされ806),合併症のない安定患者ではいつものパートナーとの性生活
は退院7~10 日後に可能とされる369).中等度以上のリスクを有する場合や性行為により症状が出現する場合は,個別に相談し判断する.硝酸薬を投与中の
患者または発作時に硝酸薬舌下錠またはスプレーを使用する可能性のある患者は,勃起不全治療薬のシルデナフィル(バイアグラ® など)やその他のホスホ
ジエステラーゼ5 阻害薬の使用を禁止する.