ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
クラス I
・心筋虚血による胸部症状のある場合に,舌下またはスプレーの口腔内噴霧で,痛みが消失するか血圧低下のため使用できなくなるまで3~5 分ごとの計3 回ま
 での投与. レベルC
・心筋虚血による胸部症状の寛解,血圧のコントロール,肺うっ血の治療目的としての静脈内投与. レベルC
クラス III
・収縮期血圧90 mmHg 未満あるいは通常の血圧に比べ30 mmHg 以上の血圧低下,高度徐脈(< 50/ 分),頻脈(> 100/ 分)を認める場合,下壁梗塞で右室梗
  塞合併が疑われる場合の投与. レベルC
・勃起不全治療薬(バイアグラ® など)服用後24 時間以内の投与. レベルB
3.2 硝酸薬
 ニトログリセリンは冠動脈や末梢の動静脈の拡張作用がある.末梢静脈の拡張は左室前負荷を軽減し,また末梢動脈の拡張は血圧を低下し後負荷を軽減
することで心筋酸素消費量を減少する.さらに冠攣縮の解除や予防に加え,側副路の血流を増加することで虚血心筋の血流を改善するため広く用いられてい
る.この結果として虚血による胸部症状に対し鎮痛効果を有する.

 再灌流療法以前のいくつかの臨床試験では硝酸薬の早期静脈内投与による梗塞サイズ縮小や死亡率減少効果が示されたが160),経皮吸収製剤161) や経
口薬162) を用いた無作為大規模試験では,硝酸薬による死亡率の有意な改善は認めなかった.

 虚血による胸部症状のある場合には,舌下またはスプレーの口腔内噴霧で,痛みが消失するか血圧低下のため使用できなくなるまで,3~5 分ごとに計3
回まで投与する.経静脈的投与は確実かつ用量調節が容易で,副作用を認めた場合にただちに中止できるという利点があり,胸部症状が持続する場合,高
血圧や肺うっ血を認める場合に適応がある.しかし,収縮期血圧90 mmHg 未満あるいは通常の血圧に比べ30 mmHg以上の血圧低下,高度徐脈(<50/
分),頻脈(> 100/ 分)を認める場合,下壁梗塞で右室梗塞合併が疑われる場合には投与を避ける.また,高齢者や脱水を伴っている場合にも硝酸薬投与に
より過度の血圧低下をきたすことがあるので注意する必要がある.勃起不全治療薬(バイアグラ® など)服用後24 時間以内の硝酸薬使用は過度な血圧低下
から心筋虚血やショックを誘発する可能性があり禁忌である163)
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