ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
クラス I
・STEMI 発症後早期でβ 遮断薬に対する禁忌がなく,かつ,高血圧,頻脈,重篤な心室不整脈のいずれかを認める患者への投与. レベルC
クラス IIa
・STEMI 発症後早期でβ 遮断薬に対する禁忌のない患者へのルーチン使用. レベルB
クラス III
 下記を認める患者への投与.
・中等度~高度の左室機能不全患者,心原性ショック.レベルC
・収縮期血圧100 mmHg 未満の低血圧. レベルC
・心拍数60/ 分未満の徐脈. レベルC
・房室ブロック(第2 度,第3 度). レベルC
・重症閉塞性動脈硬化症. レベルC
・重症慢性閉塞性肺疾患または気管支喘息など.レベルC
3.7 β 遮断薬
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 再灌流療法が施行される以前は,発症早期のβ 遮断薬の投与により梗塞サイズの縮小,および死亡,再梗塞,心破裂,心室細動,上室不整脈のいずれも減少することが示されている187-191).血栓溶解療法施行例でもβ 遮断薬の投与により再梗塞,再虚血発作が減少し,とくに早期(2時間以内)に静脈内投与した場合には死亡率も低下しうることが示されている192).発症数時間以内にβ 遮断薬を投与すると心拍数,血圧,心筋収縮性が減少し,心筋酸素需要が低下するが,このような機序により発症直後にβ遮断薬の投与を開始することは梗塞サイズを縮小させ,慢性期の合併症および再梗塞の発生率を減少させると考えられる.

 しかし,PCI による再灌流療法施行患者でのβ 遮断薬の有効性については十分に検討されていない.入院中にレニン・アンジオテンシン系阻害薬にβ 遮断薬追加の有無を後ろ向きに検討した結果では,β 遮断薬追加群で退院後12 か月間の生存率や心事故抑制率が有意に高いとの報告がある193).ただし,β 遮断薬の死亡率低下や予後改善効果は,低心機能患者や多枝病変患者においてのみ認められたとの報告もあるため,低リスク症例を含めた全例に対してのβ 遮断薬投与に関しては議論が必要である194)

 また,PCI 前からβ 遮断薬の静脈投与を行うと,入院前β 遮断薬未内服患者において慢性期の左室駆出率の改善率向上を認めたとの報告があるが195),わが国ではβ1 選択性β 遮断薬の静脈注射薬が急性心筋梗塞症の保険適応はなく,β 遮断薬の経口投与とは別に考慮することが必要である.

 β 遮断薬の適応として以前は禁忌と考えられていた慢性閉塞性肺疾患に対しては,β1 選択性の高いβ 遮断薬での忍容性や安全性の報告があり196,197),入院後にβ 遮断薬使用の必要性が優ると考えられる場合には少量からの使用も考慮されるが,救急外来での初期診療時には短時間での全身状態把握やβ 遮断薬に対する忍容性の判定が困難であり,すみやかに再灌流療法を施行するほうがよいと考えられる(入院後早期のβ 遮断薬治療については,VI. 入院後早期の管理「β 遮断薬」の項(38 ㌻)を参照).PCIによる再灌流療法施行例においてβ 遮断薬投与の至適開始時期については議論の余地がある.