ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
4.1 大動脈解離
 STEMI を発症したにもかかわらず,冠動脈造影検査および剖検にて冠動脈硬化を認めない患者が全体の約6 %に存在したという報告がある5).動脈硬化
以外の発症機序としては,急性大動脈解離や冠動脈攣縮などに伴う冠動脈狭小化,特発性冠動脈解離, 冠動脈塞栓症(感染性心内膜炎,僧帽弁逸脱,粘
液腫,壁在血栓など),動脈炎(高安病,川崎病,梅毒,脊椎炎など),外因性(外傷,医原性,放射線治療など),代謝性疾患または内膜肥厚性疾患に伴う
冠動脈壁肥厚(Fabry 病,アミロイドーシス,Hurler 病,ホモシステイン尿症など), 先天性の冠動脈奇形(起始異常,動静脈吻合,冠動脈瘤など),心筋に
おける酸素需給のアンバランス(大動脈弁狭窄,CO 中毒,甲状腺中毒症,低血圧遷延など),凝固異常(真性多血症,DIC など)など多彩な原因があげられ
23)

 Stanford A 型急性大動脈解離では,その3~9 %において大動脈内膜の裂傷から始まった解離が冠動脈入口部,とくに右冠動脈入口部にまで及び
STEMI を合併する.

 急性大動脈解離を診断するうえで病歴聴取はきわめて重要である.心筋梗塞と比べて典型的には痛みの程度が強く,激烈なことが多いとされる.通常,前
駆症状を伴わず突然,引き裂かれるような背部へ放散する鋭い痛みが出現し,解離の進行とともに痛みが移動する.呼吸困難や意識消失を伴うこともある.
既往に高血圧を認める患者が多く, Marfan 症候群に合併することもある.身体所見では四肢血圧の左右差を確認する.著しい高血圧はB 型解離で認めるこ
とが多いが,A 型解離ではむしろ正常血圧や低血圧のことが多い.また大動脈弁逆流性雑音の有無も確認する.胸部X 線写真にて上縦隔陰影の拡大,二
重陰影,大動脈壁内膜石灰化の偏位を認める場合には急性大動脈解離を疑うが,これらの所見は認めないこともある.心エコー法検査では,STEMI やその
合併症について評価するとともに,急性大動脈解離の合併を疑った場合は大動脈弁逆流,心膜液貯留についても確認する.経食道心エコー法検査で上行大
動脈のintimal flap や, 胸腹部造影CT 検査で偽腔が確認できれば確定診断となる.ただし,画像検査でintimal flap が確認できないことや,流入部が同定
できないこともありうる.一般的に,A 型急性大動脈解離は緊急外科治療の適応である198)
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