ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
4.3 冠動脈塞栓
 緊急冠動脈造影検査で完全閉塞を認め,血栓吸引カテーテルによる冠動脈内血栓吸引術により再灌流に成功し,再灌流後の冠動脈造影で梗塞責任病変に有意狭窄を認めない場合や,血管内エコー法( intravascular ultrasound: IVUS),OCT などの冠動脈内イメージングによってもプラーク破裂やびらんの所見が確認されない場合は冠動脈塞栓症が疑われる.ST 上昇が確認されても再灌流後の冠動脈造影で有意狭窄を認めなかった場合には,冠攣縮,たこつぼ型心筋症との鑑別が必要となる.

 冠動脈塞栓は,冠攣縮と同様に,急性心筋梗塞のuniversal definition では,プラーク破綻以外の機序を原因とするタイプ 2 に分類されている1)

 冠動脈塞栓による急性心筋梗塞はまれで,頻度は剖検例の0.06~1.1 %と報告されている202-205).その理由として,①大動脈に比べて冠動脈の血管径が小さいこと,②冠動脈入口部が大動脈起始部に位置すること,③冠動脈が大動脈より鈍角に出ていること,④大動脈の冠動脈入口部付近は血流が速いこと,⑤冠動脈血流はおもに拡張期優位であること,などが指摘されている202)

 冠動脈塞栓を生じる基礎疾患として,Prizel らは弁膜症49 %,心筋症29 %,心房細動24 %,感染性心内膜炎5.5%であったと報告している205).塞栓部位は左前下行枝が56~68 %と最も多く,右冠動脈は12~33 %,左回旋枝が6.8~24 %で,末梢病変が多いのが特徴とされている.また,大動脈弁病変が存在すると冠動脈入口部付近に乱流を生じ,冠動脈塞栓を起こしやすいという報告もある206)

 血栓吸引によって得られた血栓の組織学的検討では,プラーク破綻による血栓か否かの評価が可能である207,208).再灌流治療としては,血栓溶解療法や血栓吸引療法が有用と思われる.また,バルーンやステントによる拡張では再灌流が得られず,さらに末梢の塞栓を起こす可能性もあることから,冠動脈塞栓症が疑われる場合には,PCI の治療デバイスの選択には注意を要する.
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