ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
4.4 冠攣縮
 冠攣縮は,狭心症のみならず心筋梗塞の成因であることが,1970 年代から報告されている.急性心筋梗塞のuniversal definition ではタイプ2 に分類され
ている1).冠攣縮によって冠動脈内血栓が生じ,心筋梗塞発症に至った経過を詳細に述べた報告はあるが,冠動脈造影だけによる検討のため,プラーク破綻
が関与したか否かは確定されていない209)

 しかし,剖検例の冠動脈病変部位の検討では,攣縮により内皮細胞の配列が乱れて線維性被膜が断裂し,さらにプラーク内容物が血管内腔に放出され,
血栓が生じることも報告されている210).また近年,血管内視鏡による検討では,冠攣縮が生じるような動脈硬化病変の初期病変においても黄色プラークが観
察されることがUeda らにより示されている211).冠攣縮によるSTEMI 発症には血栓形成が重要である.冠攣縮発作時には,生体内トロンビン生成の最も鋭敏
な指標であるフィブリノペプチドA の冠循環内での産生が増加すること212),線溶系マーカーであるプラスミノーゲン活性化因子インヒビターの活性が亢進する
こと213),冠攣縮によるトロンビン生成が活性化血小板からのP- セレクチンなどの接着分子の放出を促進すること214)などが示されている.このように冠攣縮時
には,凝固系亢進,線溶活性低下,血小板および接着分子の活性化が生じ,さらに血栓が形成されると活性化血小板から血小板由来成長因子などが分泌さ
れ,血栓形成をさらに増悪,あるいは血管収縮性が促進される.

 心筋梗塞発症早期の冠攣縮誘発陽性率は,欧米人では11~21 %215,216) であるのに対し,日本人では69 %17) と高率だった.日本人とイタリア人を対象と
した心筋梗塞発症7~14 日後のアセチルコリンによる冠攣縮誘発試験では24),①患者別の冠攣縮発生(80 % 対37 %),②梗塞責任病変における冠攣縮
陽性率(50 % 対14 %),③多枝冠攣縮(64% 対17 %),④びまん性冠攣縮(20 % 対 7 %)と,いずれも日本人がイタリア人より高率であった.STEMI に
おける日本人の冠攣縮関与は大きく,STEMI の発症予防と治療の観点からは,Ca 拮抗薬の使用とともに抗血栓療法が重要であると考えられる.
 
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