ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
1. ガイドライン作成の経緯と目的
 急性冠症候群(acute coronary syndrome: ACS)は,冠動脈プラークの破綻とそれに伴う血栓形成により冠動脈内腔が急速に狭窄,閉塞し,心筋が虚血,壊死に陥る病態を示す症候群であり,ST 上昇型急性心筋梗塞症,非ST 上昇型急性冠症候群,心臓突然死の3 つの病態が含まれる.欧米のみならずわが国においてもこの症候群の罹患率や死亡率は高く,迅速な診断と治療を行うことが必須であり,最新のエビデンスに基づいた知識が要求される.

 しかし,この3 つの病態の臨床所見は必ずしも同一ではなく,日本循環器学会では『急性心筋梗塞(ST 上昇型)の診療に関するガイドライン』(高野照夫班長),『非ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2012 年改訂版)』(木村剛班長),『循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン』(笠貫宏班長)と,個々の疾病に応じてガイドラインが作成されてきた.

 このなかで『急性心筋梗塞(ST 上昇型)の診療に関するガイドライン』においても初版から5 年を経過し,この間の進歩を反映した部分改訂が必要と考えられた.班会議ではすみやかな対応が必要である疾病の性質上,発症時から長期にわたるすべての時期を網羅するガイドラインを作成することが決定された.このため,『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011 年改訂版)』(小川久雄班長)を始め,重なるテーマの記述に関しては記載内容に変更がない限り整合性を重視し,できる限り文言を同一とすることにし,クラス分類のみ記載した箇所もある.これらについては詳細に記載された元となるガイドラインを参照されたい.

 しかし,でき上がった原稿は多くの項目で前回と異なる記載があり,この分野の日進月歩の進歩が感じられるものとなった.全体として発症早期の迅速かつ確実な再灌流の重要性が強調されており,追加改訂されたおもな項目としては,① 12 誘導心電図を含むプレホスピタルでの診療体制,②急性期診断における心筋トロポニンの重要性,③チエノピリジン系薬剤などの抗血栓療法,④再灌流療法を中心とした経皮的冠動脈インターベンション(percutaneouscoronary intervention:PCI),⑤梗塞サイズや左室機能評価における磁気共鳴画像( magnetic resonance imaging:MRI) の有用性,⑥診断,治療の質の測定と評価,などがあげられる.

 ガイドラインは作成された時点での標準的診断,治療を推奨するものであり,個々の患者の医療方針を規定,束縛するものではない.また今回,ガイドラインの改訂にあたり,わが国のエビデンスが十分でなく,クラス分類など専門家のなかでも意見が分かれたものも少なくなかった.今後,前向き登録調査,無作為化試験などにより,エビデンスを創出して検証していくことが必要である.患者の臨床症状や医療背景は個々に異なるため,ガイドラインを踏まえたうえで,その患者に最も適したと考えられるテーラーメード医療が行われることが望まれる.
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