ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
クラス I
・発症12 時間以内で,医療チームと最初に接触してから責任病変をデバイスで再疎通するまで時間(first medical contact(あるいはdoor)-to-device time) 90分以
   内の場合にprimary PCI(ステント留置を含む)を考慮. レベルA
・症状の持続時間が3 時間以内であり,PCI を施行するために必要な時間と血栓溶解療法開始までにかかる時間の差が, ① 1 時間以内である場合のprimary
   PCI レベルB ,② 1 時間以上である場合には血栓溶解療法を考慮 レベルB .
・症状が3 時間以上持続する場合のprimary PCI. レベルB
・重症うっ血性心不全を伴う場合のprimary PCI. レベルB
・血栓溶解療法が禁忌で,発症12 時間以内の患者に対してできる限り迅速にprimary PCI を行う. レベルB
クラス IIa
・発症12 時間から24 時間以内で,次の項目のどれか1 つ以上を満たす場合.
①重症うっ血性心不全. レベルC
②不安定な血行動態または致死性不整脈などの電気生理的な不安定性. レベルC
③持続する虚血徴候. レベルC
クラス IIb
・発症12 時間から24 時間以内で血行動態,および電気生理的に安定していて症状が消失している患者へのprimary PCI. レベルB
クラス III
・血行動態が安定している患者に対する非梗塞血管へのprimary PCI. レベルB
・発症後24 時間以上経過しており,血行動態および電気生理的に安定していて症状が消失している患者へのprimary PCI. レベルA
・厚生労働省の定める施設基準を満たさない施設や,PCI に熟練していない術者が行うprimary PCI. レベルC
STEMI 患者
虚血性胸痛と
ST 上昇>1mm 持続発症からの時間は?
12 時間以上3 時間以内
はい3~12時間
はい
再灌流徴候*あり再灌流徴候*なし
いいえはい
いいえ
いいえ 搬送時間を考慮し90 分以内にデバイスによる再灌流可能か?
24 時間以内にPCI が可能な施設へ搬送
搬送時間を考慮し90 分以内かつ発症12 時間以内にデバイスによる再灌流可能か?
搬送先と相談し,血栓溶解療法を考慮
原則は緊急PCI 施設へ搬送
長時間要するなら搬送先と相談し血栓溶解療法実施を考慮
ただちにPCI が可能な施設へ搬送
STEMI 患者
FMC(あるいはdoor)‒デバイス時間を90 分以内にできるか?
FMC(あるいはdoor)‒デバイス時間を90 分以内にできるか?
虚血性胸痛とST 上昇>1mm 持続
原則として緊急PCI を選択
(長い待機時間,広い梗塞範囲などでは血栓溶解療法も考慮)
高リスクであるか検討し,血栓溶解療法もしくはPCI を考慮
発症からの時間は?
12 時間以上3 時間以内
はい3~12時間
いいえはいはい
早期冠動脈造影を考慮(24~72 時間)
さらに残存虚血,心筋生存性を評価し
治療方針を決定
緊急冠動脈造影,
適応があればPCI(FMC〈あるいはdoor〉‒デバイス時間90 分以内を目標)
あるいはCABG
いいえ いいえ
2.1 primary PCI(図6,図7)
 血栓溶解療法に比べてprimary PCI は,①高い再灌流率,②梗塞後の狭心症などの心事故の減少と予後の改善,③早期退院が得られ,④心原性ショック患者にも有効,と報告されている151a,217,218,221-238).ただし責任冠動脈の開存率,左室駆出率,心筋残存量,副作用,再梗塞率,死亡率などにおいて両者に差がないという報告も一部にある239-241).STEMI の急性期治療における治療選択の決定においては欧米の事情と異なることを考慮する必要があり,わが国では大部分の患者がPCI 施行施設に収容可能と考えられる.しかし,専門医療施設から遠隔な地域や離島も存在し,また,その他の諸事情によるPCI 実施の遅れが想定される場合には,発症3 時間以内であれば血栓溶解療法を十分に考慮する.血栓溶解療法が施行された場合には,その後PCIを行える施設への搬送が推奨され,再灌流の所見がなければPCI を考慮すべきである.

 また,STEMI において最も重要なことは,いかに発症から再灌流までの時間を短くするかということであり,STEMI 患者においては機械的合併症を有するなど一部の例外を除いて可能であれば可及的すみやかにprimary PCIを行い,再灌流を得ることが重要と考えられる.発症から24 時間以上経過しており,血行動態および電気生理的に安定していて症状が消失している患者についてはprimary PCI の必要性は乏しいが,虚血評価も含め,一定の時期を経過したあとの血行再建に関しては待機的PCI の適応に準ずる.

 STEMI に対するprimary PCI におけるベアメタルステントの使用に関しては,バルーン拡張のみの血管形成術と比較して死亡率は改善しないものの,再血行再建率を改善することが示されている242,243).薬剤溶出性ステントの使用については,いくつかの臨床試験からベアメタルステントと比較してSTEMI 患者においても死亡,心筋梗塞の頻度は変わらず,再血行再建率を改善することが報告されている244,245).したがって,再狭窄率が高いと考えられる患者背景や病変背景を有する場合に薬剤溶出性ステントの使用が考慮される.しかし,薬剤溶出性ステントの使用に際しては2 剤の抗血小板薬内服に対する出血のリスクや,近日中の手術など侵襲的手技の必要性の有無を考慮する必要がある.
図6 緊急PCI が施行可能な施設におけるSTEMI への対応アルゴリズム
心原性ショック(または進行した左心不全)の場合,発症36 時間以内かつショック発現18 時間以内はPCI,外科手術を検討する.
FMC:first medical contact.
図7 緊急PCI が施行できない施設におけるSTEMI への対応アルゴリズム
心原性ショック(または進行した左心不全)の場合,発症36 時間以内かつショック発現18 時間以内はPCI,外科手術施行可能
施設へ搬送する.
:胸痛の消失,ST 上昇の軽減,T 波の陰転化など.
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