ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
6. 再灌流後の心筋保護と再灌流傷害
 再灌流療法による梗塞サイズの縮小,左室リモデリングの抑制などにより,予後の改善効果が得られるが,再灌流自体により新たに心筋や微小循環レベ
ルでの傷害を惹起する再灌流傷害の存在が指摘されている.しかし,臨床的に再灌流自体が新たに傷害を生じたのか,先行する虚血傷害によるものかを区
別することは難しい.再灌流時に認めるreperfusion arrhythmia(再灌流性不整脈),ST 再上昇,胸痛の増強,myocardial stunning(心筋スタンニング:虚血
解除後に生存心筋で認められる心機能低下で気絶心筋ともいわれる)と,再灌流傷害(現象)との関連が示唆されている282)

 再灌流傷害は,梗塞サイズの増大や左室機能の低下,予後不良と関連し,その対策は重要な問題である.このため再灌流療法施行時に種々の治療法が
試みられている.このなかで虚血プレコンディショニング,ポストコンディショニングの機序が応用されることがある.虚血プレコンディショニングとは,冠動脈閉塞
に先行する短時間の虚血により心筋傷害が軽減する現象である.臨床的には梗塞前狭心症が知られており,心筋梗塞発症前に狭心症発作を認めた患者
は,認めなかった患者に比べ長期予後が良好であることが示されている283).ポストコンディショニングとは,再灌流直後に虚血と再灌流を数回,短時間繰り返
すことにより梗塞サイズが縮小する現象であり,臨床応用が検討されている284).また,近年remote ischemic conditioning の概念も広がっており,その有用
性が示されている285)

 再灌流傷害抑制効果を目的として,動物実験で有効とされた薬剤に関する臨床研究もこれまで行われてきたが,その効果に関しては否定的なものが多い.
しかし,現在も心筋保護を目的として,再灌流時に追加する補助療法としての薬物やデバイスなどのさらなる研究が進行中である.
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