ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
クラス I
・PCI により再灌流治療を行う患者におけるアスピリンとの併用. レベルC
・ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の発生を予知,診断するための血小板数測定. レベルC
クラス IIa
・血栓溶解療法との併用(tPA〈組織プラスミノーゲン活性化因子〉,pro-UK〈プロウロキナーゼ〉,mutant tPA〈遺伝子組換えtPA〉など,血栓親和性の高い薬剤使
   用時). レベルC
7.1 未分画ヘパリン
 primary PCI での未分画ヘパリンの投与は,ACC/AHA2009 ガイドラインでは,70~100 単位/kg をボーラス静注し,ACT(活性化全血凝固時間)を250 秒以上に維持することとされている85).しかし,わが国では,未分画ヘパリンの投与量について検討された報告はない.急性冠症候群患者を対象とした小規模の試験では,ヘパリン単独投与での有効性は認められず,アスピリンとヘパリンの併用投与が推奨される286).ヘパリンによる抗凝固効果には個人差が大きいため,ACT やAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)をモニターすることが望ましい.また,突然の中止はトロンビンを活性化して易血栓性となる可能性があり287,288),中止する場合は漸減する方法が推奨される(例:6 時間ごとに半減).

 約3 %にヘパリン起因性血小板減少症(HIT)が発症するとされ289),血小板数が10 万以下になった場合は注意を要する.HIT は非免疫機序で発生するI 型と,ヘパリン依存性の自己抗体が出現するII 型に分類される.I 型は,ヘパリン投与2~3 日後に発症する,ヘパリン自体の物理生物学的特性による一過性の血小板減少(10~20 %の減少)で,ヘパリンを継続したままでも自然に回復する.一方,II型は,主として抗PF4・ヘパリン複合体抗体(HIT 抗体)の産生により,ヘパリン投与5~14 日後,血小板数が投与開始時の50 %以下に減少し,かつ,重篤な動静脈血栓症の合併症を認めることがあり,すみやかなヘパリン中止とアルガトロバンによる代替抗凝固療法が必要となる.

 低分子ヘパリンは未分画ヘパリンと比較してSTEMI 患者で再灌流率の上昇,再梗塞や死亡率の低下において同等以上の効果があり290-293),また出血性合併症のリスクも増加しないことが報告されている294, 295).わが国では,STEMI 患者,PCI 時に対する低分子ヘパリンの使用は未認可である.
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