ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
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7.4 チエノピリジン系薬剤
クラス I
・PCI 治療前にクロピドグレル300mg(loading dose)を投与し,その後,75mg/ 日で継続投与する. レベルA
クラス IIb
・アスピリン,チクロピジン,クロピドグレルを投与できない患者にシロスタゾールを投与する. レベルC
 冠動脈ステント治療を行う患者では,アスピリンとクロピドグレルの併用が推奨される172,176,302-304).クロピドグレルはチクロピジンより副作用が少なく同等の効果があり,わが国でも,2012 年のJ-AMI レジストリーにおいて,STEMI 患者での有効性が報告され,使用が認可された.ステント留置前にローディングを行うことにより,心血管イベントの少ないことが示されている.クロピドグレルは初期負荷投与(通常300 mg/ 日,その後75 mg/ 日を継続)により,数時間後にはその作用が発現するが304),チクロピジンには初期負荷投与による即効性,安全性を示すデータがなく,STEMI 患者で緊急でステント治療を考慮する場合,クロピドグレルを優先させるのが現実的である172,176,302,304,305).さらに,より緊急性の高い患者では,600mg のローディングが有効という報告があり,ACC/AHAガイドラインでも300 ~ 600 mg が推奨されているが,わが国でのデータは確立されていない306-308)

 ACC/AHA ガイドラインでは,再灌流治療の内容や実施の有無に関わらず,すべてのSTEMI 患者に対して,アスピリンとクロピドグレルの併用投与が推奨されている.投与期間については,急性冠症候群に対しACC/AHA ガイドラインでは出血リスクが高い場合を除き,薬剤溶出性ステント,ベアメタルステントに関わらず,アスピリンとチエノピリジン系薬剤の1 年間の投与が推奨されている85)

 わが国におけるj-Cypher レジストリー研究では,6 か月以内のチエノピリジン系抗血小板薬の投与中止は,ステント血栓症のリスクとなるが,6 か月以降に中止しても,2年間の観察期間における心事故の発症リスクは上昇しないことが報告されている309).さらに,チエノピリジン系抗血小板薬を1 年以上継続投与しても,5 年間の観察期間におけるステント血栓症や心血管事故のリスク軽減効果が認められなかった310).現時点では,欧米と同様,出血リスクが高くない患者においては,アスピリンに加えて少なくとも12 か月間のクロピドグレル併用投与が推奨されている.

 2剤併用抗血小板療法(dual anti-platelet therapy: DAPT)で消化管出血リスクが高い場合,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)の投与が推奨されている311,312).しかし急性冠症候群患者へのクロピドグレルとPPI の併用により心血管イベントがPPI 非併用群より有意に増加するという報告もある313-315).後ろ向きコホート研究が多いことや,患者背景でPPI 投与群は非投与群に比べ高リスク患者が多いこと,などが解釈を複雑にしているが,最近ではクロピドグレルとPPI の併用は予後に影響しないとの報告が多い316-318).消化管出血のリスクの高い患者ではPPI の併用を検討すべきである.また,H2 受容体拮抗薬の投与により,アスピリン単剤においては消化管出血リスクを軽減するが319),DAPT においては明らかではない.

 シロスタゾール(ホスホジエステラーゼIII 阻害抗血小板薬)は,primary PCI を受けた患者を対象としてチクロピジンと同等の有用性が示されているが320),ステント留置後の検討ではチクロピジンに比べステント血栓症が多かった321).また,心拍数上昇作用があり,心不全患者には慎重に投与する必要がある.