ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
クラス I
・不必要な造影を避け,できるだけ造影剤の使用量を減らす. レベルB
・腎機能低下を認める患者にPCI 施行前後に補液を行う. レベルB
クラス IIb
・腎機能低下を認める患者には,カテーテル検査やPCI施行後に血液透析を行う. レベルB
クラス III
・肺うっ血を認めない患者に利尿薬を投与する.レベルB
・造影剤使用前後24 時間に消炎鎮痛目的で非ステロイド系抗炎症薬を使用する. レベルC
 造影剤腎症とは,ヨード造影剤使用後に生じる腎障害を指すが,その定義は報告により異なる.日本の腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイド
ラインでは,造影剤使用後72 時間以内に血清クレアチニン値が0.5 mg/dL または25 %以上上昇する場合としている346).造影剤腎症の頻度は2~7 %程度
と報告されているが,血清クレアチニン値が1.5 mg/dL を超える腎機能障害患者においては造影剤腎症の発生率は5~10 倍に増えると報告されている
347).Cigarroa らによると,
  造影剤許容量(最大造影剤許容量)=5 mL×体重(kg)〈最大300 mL〉/血清クレアチニン値(mg/dL)
としており,最大投与量を超えた場合では最大投与量内と比較して造影剤腎症発症頻度が高かったと報告している348).

 Gurmらは造影剤量/Cockcroft-Gault の計算式で求めたクレアチニンクリアランス349)を指標として2未満,2~2.9,3 以上の3 群で比較すると2 未満の群で
造影剤腎症発症が少なかったと報告している350).その他の検討でも,造影剤使用量が増えると造影剤腎症の発症率が高くなるとしており,造影の必要性と
のrisk-benefit を考慮しつつ,できるだけ造影剤の使用量を減らすことが必要である.また,心不全,血圧低値,IABP(大動脈内バルーンパンピング)使用患
者で造影剤腎症が増加することが報告されている351,352).待機的な造影剤使用時の生理食塩液を用いた補液は最も有効と考えられる造影剤腎症の予防法
であり,輸液負荷に重炭酸ナトリウムを用いることの有用性も報告されている353-355).しかし,循環状態が不安定な急性心筋梗塞に対する輸液量は確立して
いない.

 造影剤腎症予防に対する薬物療法に関しては,N- アセチルシステイン356) やアスコルビン酸357),カルペリチド358) などが有効との報告もあるが,一定の見
解は得られていない.また,造影剤腎症を予防するためには,カテーテル検査やPCI 後に血液透析を施行することの有効性は示されておらず359-361),血液透
析により腎機能が悪化したとする報告もある362).造影剤腎症予防目的での利尿薬使用は効果がないだけでなく悪化する可能性があるため,肺うっ血がない
など利尿薬使用の必要性がない状況での使用は推奨されない363).非ステロイド系抗炎症薬は造影剤腎症悪化因子の一つであり,消炎鎮痛目的での使用
は控える364).ビグアナイド系糖尿病薬使用中の患者では,乳酸アシドーシス予防のため使用を一時中止し,造影剤使用後48時間以内は再開しないことが推
奨される346).またカテーテル手技後に発生する腎障害として,大血管の動脈硬化性プラークの破綻によりひき起こされるコレステロール塞栓症が知られてい
るが,両疾患の鑑別は困難な場合があり注意が必要である.
10. 造影剤腎症について
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