ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
クラス I
・薬物治療抵抗性の心原性ショック例に対するIABP 使用. レベルB
・心原性ショック例に対する動脈圧モニタリング. レベルC
・75 歳未満の患者に対するPCI あるいはCABG による早期冠血行再建. レベルA
・PCI あるいはCABG による早期冠血行再建が不適切な場合の血栓溶解療法. レベルB
・心エコー法による心機能, 機械的合併症の評価. レベルC
クラス IIa
・心原性ショック例に対するSwan-Ganz カテーテルによる血行動態モニタリング. レベルC
・75 歳以上の患者で侵襲的治療が禁忌でない場合のPCI あるいはCABG による早期冠血行再建. レベルB
5.4 心原性ショック
 心原性ショックはきわめて死亡率の高い病態であり,多くは広範な左室収縮力低下によるが,心筋梗塞後の機械的合併症に引き続いて起こっている場合も
あるため,心エコーによる原因検索は重要である500).①収縮期血圧90mmHg未満もしくは通常より30mmHg以上の血圧低下,②乏尿(20mL/ 時未満),③
意識障害,④末梢血管収縮(四肢冷感,冷汗)のすべてを満たしている場合に心原性ショックと診断されるが,このような病態が疑われた場合には原因検索
と同時に緊急処置を開始する.STEMI 後の心原性ショック例の10~15 %は体内水分量が不足しているといわれ501),また約30 %の症例では胸部X 線上肺
うっ血を認めないため502),動脈カニューレとSwan-Ganzカテーテルで血行動態をモニタリングしつつカテコラミン,利尿薬の投与,輸液量の調節を行う.

 基本的に低血圧のある場合はドパミン5~15μg/kg/ 分,血圧が保たれている場合にはドブタミン2~15μg/kg/ 分の点滴静注を行う.単剤で効果不十分の場
合は両者を併用し,さらに循環動態が維持できない場合は,ノルアドレナリン(0.03~0.3μg/kg/ 分)の点滴静注を行い,すみやかにIABP を併用する503).こ
の状況下でも効果が不十分の場合はPCPS を用いる 504,505).

 ドパミンはノルアドレナリン前駆物質であり,用量により作用が異なる.低用量(< 2μg/kg/ 分)では末梢のドパミン受容体にだけ作用して腎血流増加作用を
示し,中等量(> 2μg/kg/ 分)ではβ 受容体に作用して心筋収縮性を高め,5μg/kg/ 分以上でα 作用による血管作用を持つ.ドブタミンはβ1 受容体を介して
心筋収縮力を増加させる.一般に2μg/kg/ 分程度の低用量で開始し漸増する.カテコラミンの点滴静注で効果がない低心拍出量の場合はPDEIII阻害薬(ミル
リノン,オルプリノンなど)やアデニル酸シクラーゼ刺激薬(コルホルシンダロパート)を投与することもある.

 また今日では再灌流療法が広く行われているが,とくに心原性ショック例についてはすみやかな再灌流の成否が予後を左右する.1996 年から1998 年に,
わが国でSTEMI 患者3113 例を対象として行った多施設後ろ向き検討では,心原性ショック合併は126 例(4 %)で,その死亡率は59 %と高率だが,このう
ち再灌流療法に成功した群の死亡率は42 %であった506).心原性ショック例を無作為にPCI もしくはCABG による緊急冠血行再建を行った152 例と初期内科
的安定化を図った150 例の2 群に割り付け,30 日,6 か月,および1 年までの全死亡率を比較したSHOCK 試験によると,緊急冠血行再建は30 日の全死亡
率は低下させなかったが(46.7 % 対56 %),6 か月および1 年(53.7 % 対66.4 %,p < 0.03)での死亡率を有意に低下させていた.また75 歳未満では30
日死亡率も低下させることが明らかにされ,重症心不全や心原性ショックを合併した患者ほど冠血行再建を積極的に考えるべきであるとしている150,151a)

 最新のESC ガイドラインでは,心原性ショックに対するIABP の有用性が2 つのメタ解析によって疑問視され,クラス I レベルC から クラス IIb レベルB
へと変更されている175)

 また,ショックが遷延し多臓器不全(multiple organfailure:MOF) や全身性炎症反応症候群(systemicinflammatory response syndrome:SIRS)に陥っ
た患者では,IAPB の効果は期待できないとの報告もある507,508),しかし改訂されたESC ガイドラインのなかでも,このような評価のために無作為試験を行う
ことの困難さも指摘されており,さらにIABP に代わる,経皮的循環補助用血液ポンプカテーテル(Impella) 509) などの新たな治療法の臨床使用ができない
わが国の現状を考慮し,本ガイドラインでは クラス I レベルB とする.

 緊急の冠血行再建が行えない場合や,専門施設への搬送までに時間を要する場合には,血栓溶解療法が有用であるとされている510)

 β 遮断薬やACE 阻害薬などの降圧薬を内服している場合は,血行動態が安定するまではこれらを中断するが,ショックから回復した後には肺うっ血(49
㌻)に従い退院までにこれらの薬剤を少量から開始すべきである.
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