ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 

 心電図から冠動脈閉塞部位を推定することで,risk areaの領域,大きさも推定できる.

 前壁梗塞において,aVR 誘導のST 上昇がV1 のそれより大きいか同じときは,左冠動脈主幹部の閉塞である可能性がある(感度81 %,特異度81 %)
117).左主幹部閉塞では,前壁だけでなく後壁でもST が上昇するため相殺し合い,前胸部誘導のST 上昇がみられないばかりか,より重症例では背側部誘
導のST 上昇が高度になると前胸部誘導のST が下降することもある.また,広範な障害のために心室内伝導障害をきたし,QRS 幅が増大することも多
い.aVR 誘導のST 上昇,下壁誘導における1mm 以上のST下降,新たな完全右脚ブロックの出現,2.5mm(0.25mV)以上のV1 誘導のST 上昇,あるいは
V4~V6 誘導のseptal Q 波の心筋梗塞発症後の消失は,左前下行枝近位部(第一中隔枝より近位部:Seg.6)の閉塞であることを強く示唆する591)

 下壁梗塞におけるV5,V6 誘導の2mm以上のST 上昇は大きな下壁梗塞を示唆している592,593).III 誘導のST 上昇が,II 誘導のそれより大きい場合,ある
いはI 誘導とaVL 誘導におけるST 下降が同時に認められる場合は,右冠動脈近位部あるいは中間部の閉塞であり,左回旋枝による可能性は低い594,595)
右冠動脈の病変による対側変化としてのI,aVL 誘導のST 下降を比較すると,aVL 誘導のほうが目立つ.II 誘導のST 上昇がIII 誘導と同等ないしそれ以上
で,V1~V3 誘導のST 下降あるいはI,aVL 誘導のST 上昇を伴う場合は,左回旋枝の閉塞が示唆されるが596,597),右冠動脈末梢(Seg.4AV)の閉塞でも同
様の所見を認めることがある.
9.1.1 責任冠動脈病変部位の推定
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