ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
ヘパリンが有効であるという知見の多くは,再灌流療法が施行される以前の大規模試験から得られたものである177).再灌流療法が施行される患者では,
再灌流療法の種類や使用薬剤によりヘパリンの使用法が異なる.PCI が施行される場合にはヘパリンの単回静注投与が推奨されている.ヘパリンは抗凝固
活性が一定ではなく,薬物動態も不安定なため,投与量を調節する必要があり,一般的にはACT が250 秒を超えるようモニタリングしながら使用する.入院
直後にヘパリンを投与することにより,とくに発症2 時間以内の患者では,冠動脈造影の時点でTIMI 血流分類2 以上の血流が得られている率が高いことが
報告されている178).
tPA にヘパリン投与を併用して再疎通率が向上することが報告されており179,180),tPA を使用した血栓溶解療法施行患者では,ヘパリンをAPTT 50~70
秒に維持しつつ48 時間静脈内投与する.クラス IIa
ヘパリンの使用期間については,一定の見解は確立されていないが,突然の中止は易血栓性となる可能性があるため,出血性合併症がなければ漸減する
ストレプトキナーゼなどの血栓親和性のない血栓溶解薬使用時にヘパリン静脈内投与を行うことで出血が増加することが報告されており181,182),同様に血栓
親和性のないウロキナーゼを使用した血栓溶解療法時にはヘパリンの使用は避けることが望ましいと考えられる.
ヘパリンの重大な副作用としてはヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)があり,重大な血栓性合併症の原因となる
183,184).臨床上問題とされるのはimmune-mediated HIT( タイプII)とされており,最近のヘパリン投与によりHIT 抗体を保持している患者では再度のヘパリン
投与により1 日以内に急激に発症するためHIT 抗体陽性が明らかな患者へのヘパリン使用は行ってはならない185).HIT の既往が明らかでない患者において
も,ヘパリン使用にて血栓塞栓症を認めた場合にはHIT 発症を疑い,最近のヘパリン使用歴を確認したあとにすべてのヘパリン使用を中止してアルガトロバン
による抗凝固療法を開始することが望ましい186).