ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
医師は可能であれば12 誘導心電図を記録評価し, IV.「初期診断,治療,管理」(14 ㌻)のプライマリケアを開始する.引き続き,経静脈的血栓溶解療法
の適応の有無を表2 のチェックリストを用いて評価する.欧米の大規模多施設無作為試験およびメタ解析は,STEMI 患者に対する可及的早期の血栓溶解
療法が,死亡率を有意に減少させることを明らかにした75-77).病院到着前に血栓溶解療法を開始すれば,病院到着後に開始した場合に比べ,死亡率は有意
に低下し(オッズ比0.83,95 %CI 0.70 ~0.98),その時間差は60 分であった78).このことから,AHA CPR/ECCガイドライン2010では,初診医(第一線の医
療施設の医師)からPCI までの時間が90 分以上要する例は,病院到着前の血栓溶解療法は妥当であるとした79). わが国のWatanabe らの報告では,
TIMI 血流分類3 達成までの時間が78 分以上遅延すると有意に梗塞サイズが大になったと報告した80).Nakao らの報告でも,発症2 時間以内の血栓溶解
薬先行投与によるfacilitated PCI はTIMI 血流分類3達成率が高く梗塞サイズを縮小したとしている81).また,Kimura らの報告でも,救命救急センターと地域
病院との比較では,血栓溶解薬先行投与群がprimary PCI 群より早い再灌流を得ていた.地域病院では,入院後90 分のTIMI血流分類3 達成率は血栓溶
解薬投与例が68 %で,primaryPCI 例の43 %より有意に高率で,再灌流までの時間短縮が顕著であったと報告している82).わが国の救急活動時間は30
分要することを考慮すると,第一線の医療施設での血栓溶解療法の開始は妥当と考える.
この血栓溶解薬先行投与後,ただちにPCI 実施可能施設へ搬送すべきか否かについての2 つの無作為試験が報告されている.両試験ともただちにPCI
施設へ搬送した群では,しなかった群と比べその予後は良好であった83, 84). これらの結果をふまえAHA/ACC の『ST 上昇型急性心筋梗塞ガイドライン/PCI
合同重点改訂版(2009 年)』では,PCI 実施ができない施設においては最初にトリアージを行い,primary PCI の適応があると判断した場合,ただちにPCI
実施可能施設へ搬送し,一方,PCI までの時間を要し,血栓溶解療法の適応があると判断した場合にはただちに血栓溶解薬を投与し,高リスクであれば,
必要に応じ抗血小板療法を追加しPCI 実施可能施設へ搬送すべきであるとした85).