ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
クラス I
・第一線の医療施設,往診時または外出先で虚血性胸痛が疑われる患者に対し,迅速な119 番通報を要請し,バイタルサインと身体所見をチェックし,可能であれ
ば12 誘導心電図を記録する. レベルB
・STEMI と診断したならば,救急車内でMONA(塩酸モルヒネ,酸素,硝酸薬,アスピリン)を考慮し,同時に末梢静脈路を確保する. レベルB
・STEMI と診断したならば,救急隊員に病院選定を助言(primary PCI〈経皮的冠動脈インターベンション〉がすみやかに実施可能な病院)する.同時に選定先の循
環器医師に直接, 現在の臨床所見を報告する.レベルC
クラス IIa
・経静脈的血栓溶解療法を考慮する. レベルC
・血栓溶解療法を施行後,患者が高リスク(表2,ステップ3 参照)または症状が持続し再灌流不成功の可能性があると判断された場合には,ただちにPCI 可能施設
へ搬送する. レベルB

 
ステップ1
 虚血性胸痛(不快感)の持続時間は,15 分以上かつ12 時間以内
  ↓ ○ はい    ○ いいえ → 適応なし
 心電図で,隣接する2 誘導以上でST 上昇,または新規に出現した左脚ブロック
  ↓ ○ はい    ○ いいえ → 適応なし
ステップ2
以下の9 項目すべて「はい」であれば血栓溶解療法を施行後高
リスク患者か否かを判定し,高リスクであれば緊急PCI がただ
ちに開始できる施設へ救急車で搬送
・収縮期血圧:180mmHg 以下
・収縮期血圧の左右差:15mmHg 以内
・拡張期血圧:110mmHg 以下
・頭蓋内疾患の既往症:なし
・3 か月以内の明らかな非開放性頭部または顔面外傷:なし
・6 週間以内の明らかな外傷,手術,消化管出血:なし
・出血・凝固系異常:なし
・妊娠:なし
・進行性または末期の悪性腫瘍,重篤な肝または腎疾患:なし
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
ステップ3
以下の1 項目以上を満たす高リスク例は緊急PCI がただちに開
始できる施設へ救急車で搬送
・心拍数 ≧ 100 回/ 分かつ 収縮期血圧 < 100mmHg
・湿性ラ音を聴取( Killip II以上)
・ショック徴候,症状あり
・血栓溶解療法が禁忌( ステップ2 の9項目のうち1項目以上)
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
○ はい ○ いいえ
 医師は可能であれば12 誘導心電図を記録評価し, IV.「初期診断,治療,管理」(14 ㌻)のプライマリケアを開始する.引き続き,経静脈的血栓溶解療法
の適応の有無を表2 のチェックリストを用いて評価する.欧米の大規模多施設無作為試験およびメタ解析は,STEMI 患者に対する可及的早期の血栓溶解
療法が,死亡率を有意に減少させることを明らかにした75-77).病院到着前に血栓溶解療法を開始すれば,病院到着後に開始した場合に比べ,死亡率は有意
に低下し(オッズ比0.83,95 %CI 0.70 ~0.98),その時間差は60 分であった78).このことから,AHA CPR/ECCガイドライン2010では,初診医(第一線の医
療施設の医師)からPCI までの時間が90 分以上要する例は,病院到着前の血栓溶解療法は妥当であるとした79). わが国のWatanabe らの報告では,
TIMI 血流分類3 達成までの時間が78 分以上遅延すると有意に梗塞サイズが大になったと報告した80).Nakao らの報告でも,発症2 時間以内の血栓溶解
薬先行投与によるfacilitated PCI はTIMI 血流分類3達成率が高く梗塞サイズを縮小したとしている81).また,Kimura らの報告でも,救命救急センターと地域
病院との比較では,血栓溶解薬先行投与群がprimary PCI 群より早い再灌流を得ていた.地域病院では,入院後90 分のTIMI血流分類3 達成率は血栓溶
解薬投与例が68 %で,primaryPCI 例の43 %より有意に高率で,再灌流までの時間短縮が顕著であったと報告している82).わが国の救急活動時間は30
分要することを考慮すると,第一線の医療施設での血栓溶解療法の開始は妥当と考える.

 この血栓溶解薬先行投与後,ただちにPCI 実施可能施設へ搬送すべきか否かについての2 つの無作為試験が報告されている.両試験ともただちにPCI
施設へ搬送した群では,しなかった群と比べその予後は良好であった83, 84). これらの結果をふまえAHA/ACC の『ST 上昇型急性心筋梗塞ガイドライン/PCI
合同重点改訂版(2009 年)』では,PCI 実施ができない施設においては最初にトリアージを行い,primary PCI の適応があると判断した場合,ただちにPCI
実施可能施設へ搬送し,一方,PCI までの時間を要し,血栓溶解療法の適応があると判断した場合にはただちに血栓溶解薬を投与し,高リスクであれば,
必要に応じ抗血小板療法を追加しPCI 実施可能施設へ搬送すべきであるとした85)
4. 医師による救急現場での胸痛対応
表2 経静脈的血栓溶解療法のチェックリスト
(ACC/AHA guidelines for the management of patients with ST-elevation myocardial infarction.
Circulation 2004; 110: 588-636. より改変引用)
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