ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 
9. 再灌流時の不整脈とその治療
 STEMI 発症後,自然に冠動脈閉塞が解除され,冠動脈血流は再開することもあるが,通常はPCI や血栓溶解療法により再灌流が得られる.これにより,
心筋壊死や心筋内出血などの心筋傷害,あるいは不整脈などのいわゆる再灌流傷害が起こりうる282,335) .再灌流後に出現する一過性の心室不整脈には,
心室細動,心室頻拍,促進心室固有調律,心室期外収縮が含まれる.再灌流後,とくに血栓溶解療法による再灌流後には,有毒な代謝物や乳酸,カリウム
などのイオンが末梢に流れ,心室不整脈が出現するという説336) や,虚血によるミトコンドリアの機能異常で不整脈が出現するという報告337) もある.

 STEMI 発症後6~24 時間以内にPCI を施行すると,再灌流直後から2 時間以内に心室不整脈が高率に出現する338,339) .虚血時間が長くなると,再灌流
時の不整脈出現頻度はむしろ少なくなる.PCI 施行後,心室不整脈が頻回に出現した患者は,出現しなかった患者に比べ,再灌流までに要した時間が短
かった338,340)

 促進心室固有調律は,再灌流時に起こりうる不整脈としては最も頻度が高い.促進心室固有調律は,血栓溶解療法により再灌流が得られたことを示す指
標であるという報告がある一方で273,341) ,再灌流を示唆しないという報告もある342).再灌流後の促進心室固有調律からは梗塞巣の大きさも示唆される
340).ST 上昇が高度な例やPCI 施行前の責任冠動脈病変血流がTIMI 血流分類0 の患者では,再灌流に伴い致死性不整脈が出現しやすい343)

 血栓溶解療法やprimary PCI 後に出現した促進心室固有調律は,心室細動へ移行するリスクは高くなく344) ,促進心室固有調律が認められたとしても経過
観察だけでよい.大規模臨床試験のメタ解析では,リドカインの予防的投与によりprimary VF の発症率は減少したが,死亡率はむしろ増加する傾向を示した
345).このためSTEMI 発症後にはリドカインも含め抗不整脈薬の予防的ルーチン投与は推奨されない.
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