ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
Guidelines for the management of patients with ST-elevation acute myocardial infarction
(JCS 2013)
 

 僧帽弁閉鎖不全(乳頭筋断裂),心室中隔穿孔,左室自由壁破裂に対する内科的治療の成績はきわめて不良であり,早急な外科的修復が必要である.既存の報告はすべて小規模な後ろ向き研究であり,適切な手術時期や術式に関するレベルの高いエビデンスは存在しない.一致した見解は,ショック状態であったため緊急救命手術を要した場合の手術成績はきわめて不良であるが,血行動態や全身状態が安定していたために結果的に緊急手術を必要としなかった症例の手術成績は比較的良好であった,ということである.しかし,これは一見して病態が安定していることを理由に安易に手術時期を遅らせることを勧めるものではない.しばしば急激な進行をきたし,手術自体が不能になるか,手術を行っても救命できる可能性がきわめて低くなるためである.いずれの機械的合併症も早期診断,早期治療が肝心であり,内科医と外科医の協力体制が不可欠である.またこれらの合併症は心臓外科を持たない施設で診断されることも多い.そのため24 時間いつでも患者の紹介や搬送ができる病院間の協力体制を確立しておくことも重要である.

 術前の侵襲的検査は最小限にとどめる必要があるが,冠動脈造影にて冠動脈病変を評価し,修復術に加えてCABGで完全血行再建を得ることが有益との報告もある.IABPは血行動態の破綻や不可逆的な臓器障害血行動態が安定していても合併症がない限り術後も数日間は留置し,緩徐に離脱することが望ましい.左室瘤に関しては,心不全コントロールが困難である場合,薬物治療抵抗性の心室性不整脈が出現する場合,血栓塞栓症を繰り返す場合に手術適応となることがある.急性期の左室内血栓は抗凝固療法により消失する例も少なくない.また,慢性期に非可動性血栓が存在するだけで手術適応になることは少ない.以下にそれぞれの機械的合併症に対する治療の要点を述べる.
6.2 治療
6.2.1 僧帽弁閉鎖不全(乳頭筋断裂) 6.2.2 心室中隔穿孔 6.2.3 左室自由壁破裂 6.2.4 左室瘤,左室内血栓
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